事業承継の経験談:三好 茂雄 氏
三好茂雄氏は、税理士として、十数名の従業員を雇用し、ご自身の税理士事務所を経営されていました。
同氏は、サービスの質や顧客満足、自身の引退について懸念。
そこで、事業承継をされることを決意されました。
創業以来24年間築きあげてきた事務所を名古屋に本拠のある税理士法人と経営統合することで、事業を継承されたのです。
その結果、仕事を取り組む姿勢が良いほうに変わり、悩みも減り、意欲が高まったのに加え、従業員の雇用や地域への密着が維持することができたそうです。

みよししげお●税理士。税理士法人コスモス・代表社員・福岡事務所統括。2008年1月に三好茂雄税理士事務所を税理士法人コスモスに事業承継。 西日本シティ銀行、福岡銀行、沖縄銀行、岐阜銀行、大和銀行、 その他の多数の銀行や信金、富士通、オービックビジネスコンサルティング、日本生命、 東京海上あんしん生命、銀行研修社、商工会議所、中小企業大学など、合計2,000以上の企業のセミナー、コンサルティングを行う。 URL: http://www.miyo4.com/
――事業承継された、ご自身の事業の概要についてお話いただけますでしょうか?
「はい。 私が経営していたのは、税理士事務所です。 従業員は10数人で、地元・福岡の税理士業界では、大きなほうに分類されるかと思います。」
――当初、何がきっかけで、事業承継(事業売却)を行おうと思われたのですか?
「最初のきっかけは、自社のサービスの質でした。 税理士という職業は、サービス業です。そのため、サービスを提供する人間のスキルにどうしてもサービスの質が依存してしまいます。 しかし、顧客対応で手一杯となってしまい、従業員が提供するサービスの質やスキルアップを図ることはむずかしかったのです。 もちろん、これには、私自身のモチベーションが低下してしまったという面もいなめませんが。
それに伴って、顧客の満足度は下がってしまいますので、売上にも影響を与えることになります。 そういうことになってきますと、自分の下で働いてくれている従業員のことも気にかかってきます。 彼らの将来や今後、経営者としては、雇用の維持について気がかりになっていました。
加えて、私自身の年齢も、60歳前になってしまったので、引退するということも考慮に入れて、 事業自体を将来的にどのようにすべきかを考えたのが事業承継(M&A、企業の合併・買収)のきっかけですね。」
――事業承継(事業売却)を行うまでに何か躊躇することがありましたか?
「ためらいは、やはりありました。決断するまでには、かなりの時間、悩みましたから。 事業承継を行うということは、承継させる、つまり、他人に継がせるということで、手放してしまうということですからね。
まず、私の経営していた税理士事務所は、地元福岡でも、それなりに大きな規模になっていました。 それは、創業以来24年間働き続けて、やっと今の規模にまで育て上げたからです。
その私の人生で大きな存在であった、自分の事務所を手放すということは、当然、大いにためらいました。 経営者としてのプライドもありますし。
もちろん、まだ自分の力だけでやれるのではないか、と考えることもありました。 また、いざ決断した後も、色々と悩むことがありました。 たとえば、スタッフは、事業承継先についてきてくれるのか、顧客も承継先についていってくれるのか、といったことですね。」
――それは、どう解消しましたか?
「まず、自分自身がどうしたいのか、ということを考えました。 おそらく、このまま自分が経営者として率いていくとしたら、成長できるとしても限界があると思ったのです。 きちんとした事業体として、よりたくさんの従業員を雇用し、より大きな事務所へと成長させるには、やはり自分だけでは難しいと考えたのです。
また、ビジネスだけでなく、社会に貢献できるようなことをするには、私自身の時間がもっと必要だと思っていました。 しかし、やはり、現状では、それらの時間を確保することは不可能なのだと思ったのです。
そこで、最終的に私が決めたことが、さまざまな承継先の選択肢のなかで、最も将来性があり、潜在的な成長が最も大きな事務所に事業承継し、 承継先からバックオフィス業務や従業員のトレーニング、スキルアップなどの支援を得た上で、自分が福岡でのトップとして先導していくということだったのです。
その結果、私が選んだのが、名古屋に本拠のある税理士法人コスモスでした。 コスモスは、非常に高いスキルや高いサービス品質を持ち、非常に勢いのある税理士事務所だったことが選択の主な理由です。
それが決まってからは、従業員への説得。 これは、事業承継が起きても、ほとんどの雇用が維持できる予定だったので、意欲のある人は来てほしいという説得をしました。 もちろん、私が今までのままやっていれば、引退するときに、もっとひどいことになっていたかもしれませんから、よい選択だったと思います。
また、顧客に対しても、今よりサービス品質が高まり、今までではできなかったようなサービスを提供できるようになったので、よい選択でした。」
――最後の決め手になったのは何でしたか?
「最後の決め手になったのは、2つあります。 ひとつは、承継先との納得いくまでの話し合いです。もうひとつは、私自身の生き方です。
承継先との話し合いでは、何度も直接会って話をし、加えてメールなどの文書でやりとりしました。 実際にじっくりと話し合うと、さまざまなことがわかり、相手が求めているものが明確になり、私自身が求めているものも、不思議と明確になっていきました。 話し合いを重ねていくうちに、私がやろうとしている事業承継こそが、私が自分の人生で今すべきことなのだとわかったのです。
そして、私自身の生き方。 私は90歳まで生きると思っているのですが、そのことを前提として、5年先、10年先、20年先を見据えて、今どうすべきかということです。
遅かれ早かれ、事業承継をすることにはなると思っていました。 ただ、それをいつするのか、ということだったのです。
そのときも、かなりの重労働をしていましたが、これほどのペースで働くことができる期間も、60歳前ですから、残り少ないと感じていました。 そう考えると、私自身が、一番望む生き方をするには、今、事業承継することがベストなのだと思ったのです。 それが最後の決め手でしょうね。」
――実際に事業承継(事業売却)を行ってみてどうですか?
「実際に事業承継を行ってみて、自分自身のビジネスに対しての姿勢が一新されました。 他の人が内側に入ってきたからでしょうか。
今までは、少し疲れた感じでいたのですが、仕事を取り組む姿勢が良いほうに変わって、 より大きな目標や夢を持つようになり、楽しくなってきました。 24年前くらいに、何も知らずに事務所を創業して、がむしゃらに働いていましたが、 そのときの創業時代のような真剣さ、熱意、夢が再燃した感覚ですね。
また、今までのように、すべて自分だけで悩み、解決する必要がかなり減りました。 経営者であれば、ほとんど孤独なので当然だったような悩みも減り、より協力して、前に進んでいけるようになりました。
もちろん、従業員の雇用や地域への密着が維持できたことも大きいです。 今回の事業承継によって、事業全体が活性化することで、今後は、雇用の維持というだけでなく、もっと多くの従業員を雇用することになると考えています。」
――具体的に、ご自身の事業承継(事業売却)スキーム(計画や枠組み)を振り返られて、どのように思われますか? もう一度、事業承継を行うとすれば、どのような点に気をつけますか?
「何事もそうでしょうが、BEFOREとAFTERは多少なりとも違うものです。 また、思いがけず、想像以上によいことが起こりますし、逆なことも起こります。まあ、心情的なことですが・・・・。
これは、すばらしいと思うスキームでも(もちろん契約上で決められること以外の)現実はありますね。
もう一度行うとすれば、
@契約にいたるまでに、詳細にわたって検討。要求すべきことは遠慮なく要求する。よく話し合って、実施する。 A他人事の契約ではないという前提ですから、目先だけでなく長期的ビジョンで内容検討していく。 Bいいアドバイザーがもっと多くいれば、もっと精神的に、法的に、税務的に、楽に事業承継契約締結にいたったと思います。 Cまあ、人生に一度くらいで結構ですよ。」
――これから事業承継(事業売却)を行おうと悩まれている経営者に、アドバイスをいただけますでしょうか?
「アドバイスとしては、まず、どのような目標を持たれているかを再確認されることをおすすめしますね。 私が、今回、事業承継を完了して思うことは、経営者は「目標設定、決断、行動、継続」の反復が重要だということです。
客観的に気づいたことは、会社が伸び悩んでいる原因は、それら4つの要素の全部、または、一部が欠落しているということです。 そして、ほとんどの場合、そのことに気づいていないのです。
ですから、将来の目標がどのようなものなのかを、再度真剣に考えてみて、それがわかってから、それに合った決断をされ、行動されてください。」







